胡麻舐め小僧

ふと思い出したのだが、子供のころ台所にあるゴマを食べて怒られたことがあった。


うちは貧乏ではなかったが、山の手の上品な家庭でもなかったので、子供が学校から帰って
きて食べるおやつというものは基本的になかった。
ドラえもん」では、のび太が大福とか煎餅を当たり前のように食べており、そうか世間で
はおやつというのが常備されているのだな、とうらやましく思った。


小学5年生のころだったか、私は留守番をしていた。
夕方になってアニメを見て、晩ご飯まではまだ1時間半ぐらいあっただろうか。
なんだか小腹が減ってきたが、台所へ行っても何もない。


戸棚を開けてみたが、小麦粉だとかサラダ油しかなく、私はがっかりした。
冷蔵庫には、夕食の材料にする何かが入っていたと思うが、自分で料理をするなど思いもし
なかったから、中を見てすぐに閉めた。


何か、何か口にするものはないだろうか。
私は餓鬼のごとく目をギョロギョロさせて、ひとり台所を右往左往した。
そしてタッパーの中に、開封してあった煎りゴマを発見したのである。


しめしめ、と手のひらに小さじ一杯ぐらいの白ゴマを出し、ぱっと口に入れて噛んだ。
じわりとゴマの風味が広がり、私はしばしうっとりと目を閉じた。
もう一口いけるだろう。ゴマを出して、アリクイのように舌で舐め取る。旨い‥‥


もう一口、もう一口とさながら麻薬におぼれるようにゴマを食べ続けてていたら、袋に入っ
ていた量の半分ぐらいを食べてしまった。
さすがにそのときには、ゴマ油のせいか、多少気持ち悪くなっていたので食べるのを止め、
タッパーにしまった。
記憶にはないが、たぶんその日の晩ご飯はあまり進まなかったと思う。


その後、私はすっかり味をしめ、空腹になると家族の目を盗んでゴマを舐めるようになった。
ほとんど妖怪である。胡麻舐め小僧といったところか。


ある日、極端にゴマが減っているのを怪しんだ母親が、私を問い詰め、ゴマを食べてはいけ
ないと叱った。当時は素直な子だったので、はい、と返事をしてゴマを舐めるのを止めた。


しかし、考えてみると、何かおやつがあれば、私だって妖怪みたいな真似をしなくて済んだ
のである。うちは煎餅とか大福が買えないほど貧しかったはずはない。
単に母親がケチだったのだ。


こういう悪癖は遺伝するもので、私も一人暮らしを始めた当初は、おやつを買っておく習慣
がなかった。口寂しくなることもなく、甘いものなど食べなくても平気だった。


だが、いつだったか、急にあんこが食べたくなり、スーパーで大福を買った。
これがきっかけになり、食後に甘いものを食べないと終わったような気がしなくなり、甘い
ものを買い置きするようになった。


今もキャラメルや飴、菓子パンなどが近くにないと、なんだか落ち着かなくなる。
タバコを吸っていたときは、チョコがないとダメだった。
これだけ甘いものを食べているのだから、さぞ太っただろうと思いきや、私の体重は高校生
のときからほぼ変化してないのである。体脂肪率は17%ぐらいだ。


たぶん、子供のころ粗食だったために、太らない身体になってしまったのではないかと思う。
ていうか、基本的にあまり食べなくても大丈夫なのだろう。実際、食べ過ぎると必ずお腹を
壊すし。


もしかしたら、胡麻舐め小僧だったときに、そのような体質になったのかもしれない。
そう考えると、少しは母親に感謝しなければならないのだろうか。


本文と写真はまったく関係ありません

川*^∇^)||<私、お母さんが作ってくれた中華スープにゴマが入ってるとテンション上がるんです!