ジャッカルの日

ドラマ「セクシーボイスアンドロボ」第二回目の最後の方で、岡田義徳が片足を切ったふりを
していたが、あれは映画「ジャッカルの日」のパロディである。


たしか10年以上前に、NHKのBS2で「黒澤明が選ぶ映画100」とかいう企画があり、そのリストに
入っていたので録画したんだった。
で、見たらあまりにも面白くて、すぐにフォーサイスの原作を古本屋で買い、神田かどこかで
ペーパーバックも手に入れた。
失業中に、翻訳と交互に少しづつ読んで、とうとう丸一冊最後まで読み通せたのを憶えている。


小説では、フランスのアルジェリア政策や、反ドゴール派の活動などが詳しく書かれているが、
映画はそういう細かいことを知らなくても十分たのしめる。
ていうか、この名作は私が紹介するまでもなく、映画好きの方なら誰でも知っているので、こ
んなことを書くのは意味がないんだけど‥‥


最初にドゴールの暗殺に失敗する場面があり、大統領専用車のシトロエンDSが撃たれる。
これは実際にあった事件らしく、大統領の運転手は引退したラリードライバーが勤めていたそ
うだ。タイヤを打ち抜かれ、三輪で逃げ延びたというから、クルマの性能もドライバーの腕もそ
うとうなものだと思う。


暗殺の依頼を受けたジャッカルが準備をする描写も、ことごとくリアルだ。
図書館でドゴール大統領のスケジュールを徹底的に調べ、狙撃できる場所と日時を決める。
そして墓場へ行き、夭逝した子供の名前を使って偽造戸籍を取得し、別人のパスポートを作る。
イタリアでは偽造の身分証明を、ベルギーでは特製の狙撃用ライフルを注文する。


私はジャッカルがライフルの照準を調整するシーンが特に気に入っている。
木の枝にスイカをぶらさげて白いペンキで顔みたいな模様を描く。
そして離れた場所から固定したライフルで撃って、微妙な誤差を詰めていくのだ。
平和な田園風景で、淡々とプロの仕事を進めるジャッカルの格好いいことといったらない。


一方、フランスでも暗殺者がいるという情報が入り、辣腕の刑事ルベルが捜査を担当する。
ふだんは恐妻家だが、仕事のときは鬼になる男だ。
たった一人の暗殺者を探し出す、雲をつかむような話だが、欧州中の警察に照会して何とか手
がかりをつかむ。


ここからジャッカルとルベルの知恵比べが始まり、物語は息詰まる展開になる。
実はフランスの警備担当官僚の中にハニートラップが仕掛けられており、ひとりの男から捜査
会議の内容が漏れている。
ルベルがこれを突き止めたとき、官僚のひとりが言う。

「ちょっと、きみ、ききたいことがあるんだが、サンクレア大佐のアパートの電話を選んで
盗聴したのは、特別に彼を疑う理由があったからなのかね」


 ルベルは戸口で内相のほうを振り返って、肩をすくめた。
「いいえ。だからゆうべは、みなさん全員の電話を盗聴させていただきました。ではこれで
失礼します」

これまでさんざん無能な下級公務員として高級官僚にバカにされてきたルベルが、叩き上げの
凄みを見せる場面である。しびれるね。


厳戒態勢のパリ市内を、ジャッカルは意外な方法で移動する。
このとき使ったトリックが、片足を失ったように見せるやつである。


いま見ても全く色あせない傑作だが、ブルース・ウィリス主演でリメイクされたやつはクソだ。
米国人は暗殺の美学を全く理解できないらしい。
たぶん、そこらじゅうで銃撃があるからだろうな。


そうそう、どうでもいいトリビアだけど、マンガ家の荒木飛呂彦は、長い間ずっとこの映画の
タイトルを「ジャッカルの目」だと思ってたそうです。
違和感はないですけどねw


本文と写真はまったく関係ありません

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