ダメな議論

ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)

ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)

全身に金粉を塗ると皮膚呼吸ができなくなるから、長時間そのままでいると死んでしまう、
という話を信じていたことがある。
だが、これは誤りだ。人間は両生類ではないから皮膚呼吸をしない。


このような間違いも、多くの人が信じていると常識になってしまう。
血液型占いもそうだが、常識だからといって正しいわけではない。
にもかかわらず、議論の中に誤った常識を滑り込ませて、なんとなく納得させている場合が
ある。


そういう議論は最初からムダであり、できれば機械的に峻別したい。
その方法が書いてあるのが本書だ。
著者は経済が専門なので、主に経済分野についての議論を例に話をすすめているが、他の分
野でも応用が可能だろう。


チェックポイントは次の5つ。
1.定義の誤解・失敗はないか
2.無内容または反証不可能な言説
3.難解な理論の不安定な結論
4.単純なデータ観察で否定されないか
5.比喩と例え話に支えられた主張


詳しくは読んでいただきたいのだが、あいまいな言葉をなんとなく使っていたり、正しいデ
ータに基づいていなかったりする議論は、怪しいと判断すべきだ、ということだ。


私が面白かったのは、141ページの天ぷらそば論法と、149ページの「財政ハルマゲドン」は
本当か? だった。


天ぷらそば論法とは、天ぷらそばに含まれる原材料の多くが外国から輸入されているものな
ので、食料自給率をもっと上げよう、という議論のことである。
しかし、金額ベースでこれを見ると、例えば1000円の天ぷらそばに含まれる原材料費は200円
程度であり、残りのほとんどはサービス料金であるから、国内で生産されたものである、と
いえるそうだ。

 天ぷらそばを使って輸入品の多さを説明する授業は、今もなお小学校などでは定番のひとつ
だそうです。しかし、そのような授業によって、日本の経済活動に占める輸入の割合が非常に
高いかのような誤解が生まれているならば、これは問題です。輸入額とGDPの比率で表され
る輸入依存度は10%前後で、先進国中ではアメリカに次ぐ低い数字となっています。ちなみに
輸出依存度も10%程度であり、その意味では日本はきわめて国内経済の比重の高い経済構造で
あることが分かります。

‥‥じゃあ、あれほど内需拡大って言ってたのは何だったんだろうか? 米国の陰謀かw


また、財政ハルマゲドンとは、日本の借金が770兆円を超え、このままでは日本がおしまいに
なる、というやつだ。
実は、これも誤解がある。
国債・地方債残高は、厳密には日本の借金ではないそうだ。

国債の60%は、郵貯簡保財政投融資政府系金融機関日本銀行による保有です。続いて
30%は民間の金融機関に保有されています。郵貯簡保、民間の金融機関に預貯金をしている
(つまりはお金を貸している)のは家計です。政府系金融機関郵貯簡保からお金を借りて
いるため、最終的な資金の元はやはり家計です。このように考えると、日本の累積財政赤字
「政府部門の借金(債務)であり、民間部門の、特に家計の資産(債権)」であることが分か
ります。

なるほど。ハルマゲドン説は誰にとってメリットがあるかを考えなくちゃならん、ということ
ですな。


他にも「国際競争力」の定義とは何か、ということについても、鋭い解説があるので、読んで
みてほしい。


結局、自分も含めて世の中の議論のほとんどは、何となく思っていることを元になされている
んだなぁ、と思う。
とりあえず、議論するときには、ひとつでもいいから対案を出さないといかんですな。


本文と写真はまったく関係ありません

↑この中に1人だけやる気のない人がいます
从釻v釻)ノ<反論! これって静止画の印象操作だよね?