華麗なる一族

TBS、金かけてるなー、という印象のドラマだった。
白い巨塔」を超えるものを作ろう、という意気込みが感じられた。


山崎豊子の原作は(まだ上巻しか読み終えてないけれど)、もともとは銀行の再編の話なのに、
ドラマでは主人公を阪神特殊鋼の万俵鉄平にしたことで、他のディティールをかなり省略している
ように思える。


私は山崎豊子の小説は「白い巨塔」と「不毛地帯」しか読んでいないのだが、この「華麗なる一族」を
含めて、いずれも物語というよりはレポートといった方がいいと思う。
山崎豊子にとっては、小説中のキャラクターに愛着などなく、非常にフラットな造形で、人物を記号の
ように扱っている。


例えば、「華麗なる一族」における登場人物の名前だが、阪神銀行頭取の万俵大介はともかく、その
長男は鉄鋼会社の専務→鉄平、次男は銀行員→銀平だし、娘に至っては、長女が一子、二女が二子、
三女が三子である。


しかし、これは手抜きというよりは、読者に対する分かりやすさだと思う。
山崎にとって、小説を書くということは、自分で取材した大学病院、商社、銀行といった巨大な組織を
なるべく噛み砕いて読者に報告することに他ならないのだろう。
その中で動くキャラクターは、単なる記号でかまわないのだ。


だから、どの小説にも、欲望の塊みたいな人物や聖人のような人物が繰り返し登場するが、それらは
巨大組織を描くための道具にすぎない。複雑な内面を持った人物よりは、記号的な人物の方がレポー
トがすっきりするのである。


で、小説をそのままテレビドラマにすると、キャラクターが役者によって増幅されるから、キャスティ
ングさえ決まれば、間違いなく面白くなるというわけだ。
(米国だとアーサー・ヘイリー原作の映画「大空港」なんかがそれにあたるかな?)


さて、木村拓哉を主人公にしたこのドラマはどうか。
すごくクォリティが高くて、キャスティングもいい。
しかし、木村拓哉ありきのドラマになってないか、とも思う。
主役なんだから当たり前だろうけど、山崎豊子にとっては万俵鉄平も手駒のひとつにすぎない。


ドラマの木村拓哉のように、純粋で熱い経営者というキャラクターをクローズアップしてしまうと、
もともと原作に書かれた、巨大組織に翻弄される男でなくなってしまうのではないだろうか。


ひとつ気になったのは、先代の万俵敬介のイメージである。
小説ではがっしりして眼光の鋭い男、という描写だったが、ドラマでは木村拓哉を老けさせただけに
なっている。
いくら祖父と孫がそっくりだ、という設定とはいえ、これは違うのではないか。
(特に肖像画はひどい出来だった)


私のイメージでは、
祖父(敬介):北大路欣也
父親(大介):夏八木勲あるいは本田博太郎
息子(鉄平):唐沢寿明
というキャスティングだったらぴったりかな、と思うが、しょせん素人のたわごとか。


とはいえ、スタイリッシュな技術者を熱演している木村拓哉は華があっていい。
溶鉱炉の前でヘルメットを被っても格好いいのは、彼だけかもしれない。
残念なのは、せっかく吹石一恵相武紗季といった関西出身の女優をそろえているのに、会話が
標準語なことだ。せめて姉妹の会話だけでも関西弁にするといいのに。


本文と写真はまったく関係ありません

从*^ー^)<ヘルメットも似合いますよ? 







どうでもいいウンチクですが、かつて日本はバカみたいに鉄を作ってました。
世界の生産キャパが7億tと言われていたころ、日本には1億tの生産設備がありました。
世界の七分の一の鉄を作ってたんですね。


【追記】
05年の世界の粗鋼生産量は11億2930万t、日本は1億1250万tだそうです。
中国の粗鋼生産が伸びたのでしょうね。


これは当時の通産省が指導した傾斜配分と呼ばれる政策で、重工業に積極的に設備投資して
原料を加工し、それを輸出して国富を増やそうとしたのです。
鉄からクルマや建設用鉄骨、家電などが作られていき、日本は豊かになったわけですね。


鉄は高炉と呼ばれる超ハイテクな溶鉱炉と、電炉と呼ばれる溶鉱炉に分かれます。
高炉は建設費用が莫大で、稼動させると一年間休みなく動かさねばなりません。
一方、電炉は比較的規模が小さく、電気代はかかりますが生産調整がこまめにできます。


華麗なる一族」のドラマで、主人公が建設しようとしているのは高炉ですね。
鉄鉱石とコークス(蒸し焼きにした石炭)を投入して、マンガンやシリコンを入れて成分調整すると、
ドロドロに溶けた鉄ができます。
鉄鉱石はFeO(酸化鉄)で、それをC(炭素)で還元すると、Fe(純鉄)+CO(一酸化炭素)になる
わけです。


これをどんどこ作るとコストは下がり、国際競争力のある製品になります。
しかし、国家規模で製鉄所を建設した旧ソ連や韓国のような国も、鉄をどんどん作りました。
そうすると、市場はダブつくわけです。


そこで日本は、品質のいい鉄や特殊な鉄を作ることにしました。
自動車用鋼板や特殊鋼と呼ばれるものは、まだまだ日本の技術が世界をリードしています。


Wikipedia によると、「華麗なる一族」のモデルになったのは山陽特殊製鋼らしいです。
私は日本橋にある山陽特殊製鋼に何度か行ったことがあります。地味な会社だったなw


特殊鋼というのは、Feにモリブデンやクロムやニオブなどのレアメタルを投入し、鉄の性質を
変化させたものです。鍋にスパイスを入れて味を変えるようなものでしょうか。
例えば、Feにニッケルとクロムを入れるとステンレスになります。
モリブデンを入れると耐熱・耐圧鋼になります。


こういう素材は、原油を運ぶパイプラインの素材や、戦車・潜水艦の素材になります。
山陽特殊製鋼三菱重工に特殊鋼を納入してたらしいので、たぶん戦車とか潜水艦用の特殊鋼を
つくってたんじゃないかなぁ、と思います。


一方、特殊鋼でないものは普通鋼といいますが、これは規模が大きいほど市場を支配できます。
いまはミッタルスチールというインド資本の会社が、次々と鉄鋼メーカーを買収しており、日本の
鉄鋼メーカーも狙われているのではないか、という話です。
そこで、韓国や中国の鉄鋼メーカーと協力して、なんとか頑張っていこうとしているみたいですね。


どうでもいい話をここまで読んでいただき、ありがとうございました。