第四解剖室

第四解剖室 (新潮文庫)

第四解剖室 (新潮文庫)

スティーヴン・キングといえばホラー小説の作家ということになっている。
が、私は彼の作品から恐怖というものをあまり感じたことはない。
肉体的な損傷よりも、呪いとか怨念といったものの方が怖い。


だから「13日の金曜日」を見ても、ショックは受けるけど怖くはない。
逆に「リング」を見たときは、部屋の中に何かが出そうな気がして怖かった。
外国のものは、しょせん他人事みたいなイメージがあるからだろうか? 


私にとってスティーヴン・キングの小説の魅力は、圧倒的な物語を押し進める力である。
特に長編作品で感じるが、序盤からしばらく読んでいくと、ぐいっとつかまれてしまう瞬間が
ある。そうなると、もう止められない。
巨大なエンジンがついた乗り物に引きずられるように、物語に没入させられていく。


それを味わったのが「シャイニング」であり「IT」であり「ミザリー」だった。あと中篇
では「刑務所のリタ・ヘイワース」か。
(日本の作家だと、井上ひさし宮部みゆきにもそれがある)


いつごろから、私はスティーヴン・キングの読者でなくなったのだろうか? 
たぶん「グリーンマイル」の文庫本を買っていたぐらいだから、もう10年ぐらい前か。


ちょっと脱線するが、「グリーンマイル」は米国でも分冊形式で出版されて話題になったらしい。
考えてみれば、《次回に続く》というかたちの“引き”が、もっとも洗練された形で出版されて
いるのは、日本のマンガだろう。
質・量ともに優れている週刊少年マンガ誌がある限り、日本のマンガの“引き”は世界一であり
続けると思う。


テレビドラマでは、かつては日本がやっていたことを、韓国ドラマが過剰にやっている気がする。
米国のドラマは基本的に一話完結で、ちゃんと落ちがあるものが好まれるのだろう。
ただ、ときどき「ツインピークス」とか「24」のような“引き”の強いドラマが大ヒットする
から、米国人も嫌いではないと思われる。


ただ、“引き”をやりすぎると、ドラマが破綻してしまう可能性があり、全体の整合性を求めると、
どうしても控えられることになる。
やりすぎた例がこれw


脱線終わり。
この「第四解剖室」には13本の短編のうち6本が翻訳されている。
私は、キングは長編タイプの作家だと思っており、短編はあまり面白くないのだが、作者の頭に
次々とアイデアが浮かんでくるのでアウトプットしてしまう、と序文に書いてある。


しかし、本書の中の「黒いスーツの男」と「愛するものはぜんぶさらいとられる」は良かった。
前者は少年が釣りをしているときに悪魔に出会う話で、後者はトイレの落書きを書き留める趣味の
男が自殺を思いとどまる話である。


特に「愛するもの」の方は、翻訳が非常に難しかったと思う。なにしろ落書きなので、そのニュ
アンスは米国人にしか伝わらないはずだ。
読んでいてよく分からないところもあったが、名訳だった。
自殺しようと思った人は分かると思うが、案外つまらないことが気になって思いとどまったり
するものだ。その心理の移り変わりが、実にうまく描かれていてよかった。