- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1983/02/10
- メディア: コミック
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他人の才能を盗み取り、次々に名声を勝ち取っていく女を描いたピカレスクものである。
手塚治虫のマンガには、ロック(間久部緑郎)というピカロがいるが、なぜかこの作品では
女を主人公にしている。
作品としては、同時期に描いていた「きりひと讃歌」の方が圧倒的に面白い。
恐らく、この時期の手塚は劇画ブームのために迷走していたのだろう。
女性を主人公にしてエロティックな描写をすれば読者に受けると思っていたのかもしれない。
しかし、手塚マンガのエロティックさは描線そのものにあり、セックスシーンは逆に全くエロく
ない。
その意味で、このマンガは明らかに失敗している。
もうひとつは、「ゴルゴ13」のような政治・経済マンガがやりたかったのではないか、という
ことだ。
「人間昆虫記」では、中盤から鉄鋼会社の輸出先をめぐる駆け引きが展開され、中華民国から
共産中国に鞍替えする話になる。
おそらく、大企業のサラリーマンを意識して描いたと思われるが、その間、主人公の女は悪事を
働くこともなく、脇役になっている。
この点でも、やはり失敗している。
一度読めば、他人のものを剽窃して、本物でないものが名声を得る社会を批判していることが
分かる。
手塚治虫としては、自分が切り開いてきたマンガというジャンルから、まったく認められない
劇画のような新しい才能がどんどん現れるのが嫌だったのかもしれない。
しかし、しょせん一発屋は一発屋で終わり、本当に面白いものは時の試練を経て残るものだ。
だから、このマンガは本来なら誰も読まなくなるはずのものなのだが、手塚治虫の作品史を
俯瞰する上で、ちょっと面白い資料になると思う。
なんか、一言で片付く話を無理やり引き伸ばしてしまった。
申し訳ない。