地下鉄のザジ

地下鉄のザジ [DVD]

地下鉄のザジ [DVD]

ロバート・アルトマンも亡くなったけど、特に何も書くことがないなぁ、と思っていたら、
フィリップ・ノワレも逝ってしまった。
若い人だと「ニュー・シネマ・パラダイス」のお爺さんで記憶されていると思うが、私は
断然「地下鉄のザジ」の伯父さんである。


しかし、この映画は10人見たら8人が面白くなかったと言うだろう。
なにしろ原作が言葉遊びの前衛文学なので、分かりやすいストーリーがないのだ。
それに、今から46年前の映画である。
1960年のフランス人なら爆笑するような笑いがたくさんあるんだろうけど、2006年の
日本人には何が面白いのか分からないだろう。


だが、なぜか私はこの作品が好きなのである。
主演のカトリーヌ・ドモンジョが可愛いというのもあるが、全体がチャカチャカ動く無声
映画のようであり、カラフルで猥雑なエネルギーにあふれているからだろう。
おそらく、草創期の無声喜劇映画へのオマージュではないかと思う。


【あらすじ】

情人と会うために田舎から出てきた母親にくっついて、ザジという12歳ぐらいの少女も
パリに来る。
母親は二日後の朝まで情人とやりまくるので、その間ザジは伯父さんと一緒にいることに
なる。


ザジの望みは地下鉄に乗ることだが、ストライキ中で地下鉄の入り口は閉鎖されている。
仕方なく伯父さんの家に泊まって、翌日パリ見物をするのだが、変な人ばかり現れる。
そういう大人たちをからかって煙に巻いて遊んでいるうちに夜中になって眠くなる。


明け方になって地下鉄は運行を再開し、ザジは眠ったまま、地下鉄で母親が待っている駅へ
伯父さんに連れて行かれる。せっかく地下鉄に乗れたのに、本人は夢の中である。
二日後の朝、母親と再会したザジは、パリで何をしてたの? と問われ
「年をとったわ」
と答えるのだった。


本当に近くにいたら、張り倒したいほど小生意気なクソガキなのだが、彼女がピンボール
球のように動くので、画面に活気が出てくる。
だから、最後の方になってザジが眠ってしまってからは退屈だ。
ものすごい乱闘シーンがあるのだが、なぜか虚ろに見える。戦争を表現しているのか? 


そのザジの伯父さん役が、先日亡くなったフィリップ・ノワレである。

小説ではゲイバーのストリッパーだったが、映画ではなかなかダンディな伯父さんを楽しげに
演じていた。
特に、エッフェル塔で哲学的なことをつぶやきながら鉄骨にぶら下がるシーンは好きだなぁ。


あと、トルスカイヨン役の人もよかったし、フィリップ・ノワレ奥さん役の人(原作では
レズのタチ)が無機質で面白かった。
ティム・バートン監督の「マーズアタック!」で火星人が化けた美人が登場するが、まさに
ああいう感じ。


監督のルイ・マルは、本来は「死刑台のエレベーター」とか「鬼火」のような果てしなく暗い
映画を撮る人である。
もしかしたらルイ・マルにとって「地下鉄のザジ」は、スピルバーグにおける「1941」のような
作品なのかもしれない。


ちなみに、原作の文庫本はたぶん絶版だろうけど、挿絵が面白い。

地下鉄のザジ (中公文庫)

地下鉄のザジ (中公文庫)

上記の表紙の絵も、ザジがおっさんを指さして“c'est un hormo ?”<こいつホモ?>と言って
いる。また、作中でやたらとザジが「けつ食らえ」と叫ぶのだが、これは“tu causes”でいいの
だろうか?(フランス語に堪能な人、教えてください)


90分ぐらいの短い映画なのだが、作中でこれはザジの夢の中の話だ、とネタばらしをしている
ように、細かくて脈絡がなくてわけの分からないカットの連続だから、最後にはお腹いっぱいに
なってしまう。
ボーッと見るのがおすすめです。