フェリー

いまは四国に橋が3本もかかっているので、本州へ行くのに船を使うことはあまりないと思うの
だが、私が高校生のときは、専らフェリーを利用していた。
だから、修学旅行に行くときも、当然フェリーに乗ったものだった。


当時は松山‐大阪間で8時間ぐらいかかっていたと思う。夜10時に乗船して、到着は朝5時半
ぐらいだっただろうか。
そうすると、船内で一泊するわけだが、2等船室というのはただっ広い一面に絨毯が敷いてある
だけで、みんな雑魚寝をするのである。


しかし、フェリーの枕というのは、なぜあんな真四角の羊羹みたいな形をしているのだろうか? 
昔の武士じゃあるまいし、あんなので寝られるわけがない。
一昨年、大分に行ったときもフェリーに乗ったのだが、やはり真四角の枕だった。多少おおきく
なっていたけど。


ふざける奴は必ずいるので、枕を投げ合うのだが、あれは当たったらとても痛いのである。
さすがに高校生なので、枕投げ大会にはならなかったが、先生に怒られていた。
いい気味だ。


話は一転するが、当時の私たちは古文で今昔物語を習っていた。
そのときの教科書に、確か「足鼎(あしがなえ)」の話が載っていた。
お寺で坊主どもが掃除をしているときに、いたずらして足鼎を頭にかぶったはいいが抜けなく
なり、むりやり引っ張ったところ、耳と鼻が欠けてしまった、というお話だったと思う。
原文では「耳鼻欠けうげながら、抜きにけり」とあり、恐ろしいのう、と思っていた。


さて、いつも弁当のおかずを交換していたSは、修学旅行でも私と同じ班だったのだが、2等
船室に金盥(かなだらい≒洗面器)があるのを発見した。
Sは古文の話を思い出したのか、やおらそれを頭にかぶり「みみはな、かけうげながら」と
言いながらおどけたポーズをとった。


周りにいた奴らは、私を含め爆笑していたのだが、ふと気がついた。
その金盥は、もしや船酔いのときに使うものではあるまいか? 
つまり、ゲロを吐くときのための‥‥


私がそのことを告げると、Sは金盥をパッと落とし、まっすぐトイレに向かった。
おそらく、髪の毛を洗いに行ったのだろう。
その姿を見て、我々は再び爆笑したのだった。


書いてみて思ったのだが、これはSという人物を知らないと面白くもなんともない話だったな。
すいませんでした。