無人遊園地

松山観光港の近くに、梅津寺(ばいしんじ)という庭園があり、その隣に「梅津寺パーク
という非常に小さい遊園地がある。経営は伊予鉄道が行っているが、寂れていていつ潰れて
もおかしくない。


あれは1992年の今頃だったと思う。
たまたま帰省していた私は、ヒマだったので梅津寺パークに行ってみた。
ひとりでカラオケボックスに行くのも平気なので、遊園地もひとりで行ったのだが、考えて
みれば異常である。


最寄り駅の伊予鉄梅津寺駅は、かつて月9ドラマ「東京ラブストーリー」のロケに使われた
場所である。“さよならカンチ”と書かれたハンカチが結んであるシーンだが、誰もついて
来れないですね。すいません。


たぶん水曜日だったと思うが、平日の昼間である。
まだ夏休みには入っておらず、学生はいない。当然、家族連れもいない。
シーンとした遊園地の入り口で、私は入場券を買った。


梅津寺パークは、乗り物に乗るとき、いちいち「乗り物券」を使うシステムになっている。
たしか、一枚100円の乗り物券の綴りを500円分ぐらい買って、それぞれの乗り物に2枚とか
3枚とか、指定された枚数の券を出すんだったと思う。違ってたらごめん。


じゃあ、まずジェットコースターに乗ってみようかな、と
私は誰も並んでいないジェットコースター乗り場へ向かった。
バイトらしい係員が、ちょっと驚いたような顔で乗り物券を受け取った。


私はジェットコースターの一番前に乗った。振り返ると、誰も乗っていない。
ベルが鳴って発車。まあ、大したことない起伏だったけど、それなりにスリルがあった。
ただ、私ひとりだったので、キャーとかワーッという声もなく、ただただ車両が動く音が
ゴーッするだけだったのがシュールであった。


ジェットコースターを降りて、次は何に乗ろうか、と園内を歩いていると、後ろから妙な
気配を感じる。
振り返ると、さっきジェットコースターのところで乗り物券を受け取った係員が、私の
あとをつけているのだ。


そして、観覧車に乗ろうと乗り場に近づいていくと、後ろにいた係員が私を追い越して
「いらっしゃいませ」と言った。
‥‥‥‥私は乗り物券を渡して、観覧車に乗った。


上のほうまでいくと、遊園地が一望できる。
予想はしていたが、園内で客は私だけだった。
そして、私が乗っているもの以外のアトラクションは、すべて止まっていた。


ひとりで(結果的に)貸切になった遊園地にいても、ちっとも面白くない。
ていうか、怖い。
係員も、こいつは何をしに来たんだろう? という顔をしていたし。


ちょうど乗り物券も使いきったし、私はいたたまれなくなって梅津寺パークを出た。
まだ梅雨が明けておらず、どんよりとした空模様だったのを憶えている。


もし、私の話が嘘だと思うなら、夏休み前の平日に梅津寺パークへ行ってみるといいよ。


本文と写真はまったく関係ありません

リd*^ー^)<ある意味ミラクルでしたよ?