古谷実

この人は天才じゃないかと思うのだが、最近は尻切れトンボの作品しか描かなくて残念だ。


デビュー作の「行け!稲中卓球部」は、メジャーなマンガでダウンタウンの笑いの文法を
初めて取り入れた作品だと思う。
この作品以降、ギャグマンガの質が大きく変化しているのだが、ダウンタウン的な文法が
普遍化してしまったために、ほとんど言及されていない。


ダウンタウンの笑いの文法とは何か? 
考えてみたのだが、うまく説明できない。というか、よく分からない。
ぼんやりと、意味するものと意味されるものの乖離を自覚的に笑いにしたことか? と
思うけど、違うような気もする‥‥。


なお、古谷は「稲中」「僕といっしょ」「グリーンヒル」では、笑いに軸足を置いた作品を
発表しているが、「ヒミズ」「シガテラ」は日常の恐怖を中心に描いている。
笑いと恐怖は、ひとつのものを別の角度から見たものであるから、作者の本質は何も変化
していないのだが、彼のギャグが好きだったので寂しい。


そんな古谷実が、今週のヤングマガジンから新連載「わにとかげぎす」をスタートさせた。
タイトルの意味は不明だ。
ちなみに「シガテラ」はシガトキシンを含んだ海洋生物を摂取した場合に発生する食中毒
だそうだ。なんでこんなタイトルにしたのか分からん。


古谷は、よく「どうしようもなくなりつつある人」を登場させる。
フリーターを続けて30歳を越してしまったような、人生に何の展望もないような人物が
もがき苦しむさまを、リアルに描く。
マンガなのだから、ハッピーにすることだってできるはずなのに、敢えて現実のダークな
穴へ落とし込めていく。


なぜ、こういう人々を好んで描くのか。
作者はマンガで大ヒット作がある金持ちだから、人生の成功者である。
だが、マンガを描く前は新幹線の車内販売をしていたというから、もしマンガを描かな
ければ、あるいはヒットがなかったら、という想像が、本人の恐怖を生み出しているの
かもしれない。


私は人生に何の展望もない種類のオッサンなので、このマンガを読むと怖くて死にたく
なる。
北野武監督の映画「3-4×10月」を見ているような感じがするのだ。