啓蒙としてのラーメン

松山はJRの松山駅と、私鉄の松山駅が分離しており、私鉄(伊予鉄道)のターミナル駅
松山市駅の略で「市駅」(しえき)と呼ばれている。
そして、市駅の方が栄えているのだが、街づくり的にはJRと私鉄の駅を一緒にしたらいい
のではないかと思っている。


その市駅には「まつちかタウン」というショボい地下街があり、集客力が減ってきたので
活性化として石神秀幸プロデュースの<ラーメンステーション>というものを作った。
全国から有名なラーメン屋を5軒招致して、四国松山にもラーメン文化を伝えようという
主旨である。


旭川から「青葉」、札幌から「縁や」、東京から「鏡花」、福岡から「秀」、熊本から
「天外天」の5つが出店して、オープンからすでに行列ができている。
松山でラーメン屋に行列ができるというのは、恐らく初めてではあるまいか。


私も並んでみて思ったのだが、実に丁寧なのである。
接客が丁寧というよりは、何も知らない人に教えてあげる、という意味で丁寧なのだ。


まず、全店とも最初に自動券売機で食券を買わなければならない。
これで注文の間違いはなくなるし、遠慮して「ラーメンください」と一番安いものを
選ばれる心配もない。
驚くことに、このとき、どんなラーメンがあるかを写真入りメニューを手にした従業員が
説明し、どんなものを食べたらいいのか、アドバイスすら行っている。


そして行列中も、お茶や雑誌を出してサービスしたり、店長が話し相手になってラー
メンの解説をしているのだ。
もはや「啓蒙」というほかはない。


私は「鏡花」でつけ麺を食べた。松山ではなかった加水率の高い麺で、おいしかった。
松山にもつけ麺を出す店はいくつかあるのだが、麺を食べ終わった後のつけ汁にスープを
注いでくれるサービスは、この「鏡花」だけではあるまいか。
東京では当たり前なのだが。


もちろん、味覚というのは保守的なものだから、今まで親しんできた松山のラーメンを
支持する人も多いと思う。
一概に県外のラーメン屋の方がレベルが上だとは断言できない。


しかし、閉塞した田舎に新しい味覚を提供することは、とてもインパクトがあると
思うし、ぜひ成功して定着させてほしいと祈っている。
選択肢が増えるというのは、豊かであると思うので。


10月14日にオープンしたこの<ラーメンステーション>が、一過性のものではなく市内の
ラーメン屋を巻き込むような味の向上を目指すムーブメントの発端になってほしい。
ありゃ、新聞のコメントのような結論になってしまった。失礼。